DIABOLOS~哀婉の詩~
姉の覚醒
そして、アンネにも・・・
呪われた運命が時を刻み始めた・・・・
それは、我々の目の前で起こった。剣の稽古の時だ。
闇の住人のひとりと剣を交えているとき、突然アンネは剣を落とし、稽古のことも忘れ、自分の両手を真剣に見つめている。僕たちは不思議そうにその光景を見ていた。
やがて、その両手を頭に添えて、空を見上げ、声にならない叫び声をあげた。
僕にはその姿がシモンと重なったように見えた。僕の脳裏に蘇るあの光景。
みなも、すでに理解しているのだろうか、誰も動こうとしなかった。
アンネと剣を交えていた闇の住人はこのことを誰か伝えに行ったのか、僕たちがアンネに目をやっている間に消えていた。そしてアンネにもシモンと同じような変化が起きた。浮き出る血管、獅子のような尖った牙と金色に輝く楕円形の瞳。僕以外はこの光景を見るのは初めてだった。サンティは鬼のような形相のアンネを涙ぐみながら見つめていた。しかし、シモンのそれとは若干違っていた、体が炎上しないのだ。シモンの時はもうすでに炎上は始まっていた。しかし、アンネには見られない。
『アンネ…』
僕は呟いた。
やがてアンネからの叫び声が消え、力なくその場にしゃがみこんだ。
覚醒が成功したのか、僕は誰よりも早くアンネのもとに駆け寄った。
『アンネ!』
アンネの肩に手を差し伸べようとした瞬間、アンネは顔を上げた。その顔はあの鬼のような形相のままだった。
『ア、アンネ…』
僕は、困惑していた。アンネは睨むように僕を見つめる。すると、先ほど落とした剣を瞬時に拾い上げ、僕を切りつけた。アンネの斬撃は僕を刻んだ。胸が抉れて、僕はその場に倒れ込んだ。遠退いていく意識の中で、アンネをみる。アンネはその口をつり上げて、冷たい笑みを見せていた。
『……ア……ン…』
この時、僕の意識は完全に消え失せた。皮肉にも、この事が人と完全に異なる存在だと証明することになる。僕が斬られた後、アンネはなんの躊躇いもなく、我々を襲った。その惨劇は凄まじかったのだろう。
使徒の能力に、人とは比べものにならない程の自己治癒能力が備わっていた。我々はあの時、誰もが致命傷を負ったはずだが、みな、一日たらずで回復した。
発狂したアンネは僕達を切り刻んだ後、アンネ自身も意識を失い、そのまま牢に幽閉された。

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