月の下でキスと罰を。
 美しい顔と美しい手で人形を作り出す瀬良は、そう言って少し妖艶に口の端を上げた。蘭子のことを思い出しているのだろうか。あの女は、瀬良の体も買っていたから。

 いや、蘭子だけじゃない。その他の、瀬良を買った奴ら。

 カヨも、結局は居なくなった。

 コト、コト、歩いて小田桐の近くまで行く瀬良。ゆっくり顔を上げる。下から覗き込むように。少しだけ、小田桐の意志の強い目が揺らいだ。


「それと、この月だけは売りません」

 そこだけ、小田桐の目を見て強く言った。

「展示にも、出しません」


 工房はとても寒かったのだろう。あたしには分からないが、瀬良は少しだけ震えて、小田桐は黒いコートを着ていたけれど息が白かった。


「あとは好きにしてください。いいんです。僕はひとりだから。誰にも言いません」
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