さよなら、片思い【完】
唯と初めて会ったときの印象は「大人しい子」。


仁奈と律がしきりに唯を俺に勧めてきたけど正直タイプではなかった。


ただ、初めて会った俺に対する気づかいや俺だけに見せる初々しい反応が新鮮だった。


由香里じゃなかったら誰と付き合っても同じだった俺は彼女からの交際の申し出に「由香里以上は好きにはなれない」と残酷なセリフを吐いて偽りの関係をスタートさせた。


最初は他の女たちと同じように、自分に本気にならない俺に愛想を尽かして離れていくだろうと思っていた。


ところが唯は離れるどころか、自分への気持ちがないと分かっていながら俺に微笑みかけてくる。


その気持ちが純粋すぎて、まっすぐすぎて、俺には眩しすぎた。


「ねぇ、彼女できたってほんと?」


ホテルのベッドの上でタバコを吸いながら腕を絡めてきた女は身体だけのライトな付き合いの関係。


「それが?」


「気になるの。誰にも本気にならない哲を落としたんだもの。どういう子かなって、興味があるわ」


「普通の子だよ。平凡な子」


「へー…意外ね。ふふ、彼女がいるのに他の女で遊んでるなんて悪い彼氏ね」


「煩いな。黙って」


女のタバコを消しながら、色艶のある唇に口付けをする。


口内を犯しながらいつもなら由香里が脳裏に過ぎり由香里の代わりとして女を抱く。


でも、唯の顔がチラついた。


唯のあの汚れのない柔らかな笑顔が。


「どうしたの?」


「えっ?」


「心ここにあらず。今までそんなことなかったわ。彼女のこと気になるの?」


気になる?誰のことが?
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