道摩の娘
◆
「ああ、やっぱり…」
晴明が頷く。
ところかわって、陰陽寮である。
時刻は朝。
長い夜回りから戻った二人は、白湯を飲みながら休憩をとっていた。
りいから超子の言葉を聞いた晴明は、ふっと息をついて、椀を干した。
すっかり初夏である。
まだこの時刻は涼しいものの、もう外は完全に明るく、外の池からは蓮の花の清々しい香りが漂ってくる。
「そういえば、りい、〈山〉ってどんなところ?」
晴明が何気なく問う。
りいは、少ない知識を総動員しながら答えた。
「ええと…私は幼い頃に播磨を離れているし、立ち入れないから詳しくはないが…私達の聖域だな。蘆屋の初代を祀ってある、らしい…それから、道摩と協力している烏天狗が棲むとか」
「…それなんだけど、どうしてりいは立ち入れない?」
「え…?」
りいは、虚を突かれて問い返す。
「え…それは、私は長でもないし…女子だから…血の…穢れもあるだろうし」
これまで当然と思い、気にしたこともなかった。
血の穢れ、などと流石に言いづらく、何を考えているのかと晴明を見ると、晴明は首を捻っていた。
そして、とんでもないことを口にした。
「だって…万尋さんや一碧さん、は、入ってるのに?」
一瞬りいの思考が止まる。
「え…ええっ!?」
「だってそうだよね、りいの話からすると…」
「どういう、ことだ」
思いもかけないことに、りいは混乱する。
一碧は山に入っている?そんなことは初耳である。
だがしかし、晴明の表情を見ると、一笑に伏すことはためらわれた。
「それは…」
晴明は説明しかけて、ふと表情を変えた。
すっと立ち上がる。
「ごめん、陰陽頭のとこに行かなきゃ。りいは少し寝てるといいよ。日が高くなるともう暑いから」
「あ、ああ…」
釈然としないが、仕事と言われてはそれ以上追及することもできない。
「ああ、やっぱり…」
晴明が頷く。
ところかわって、陰陽寮である。
時刻は朝。
長い夜回りから戻った二人は、白湯を飲みながら休憩をとっていた。
りいから超子の言葉を聞いた晴明は、ふっと息をついて、椀を干した。
すっかり初夏である。
まだこの時刻は涼しいものの、もう外は完全に明るく、外の池からは蓮の花の清々しい香りが漂ってくる。
「そういえば、りい、〈山〉ってどんなところ?」
晴明が何気なく問う。
りいは、少ない知識を総動員しながら答えた。
「ええと…私は幼い頃に播磨を離れているし、立ち入れないから詳しくはないが…私達の聖域だな。蘆屋の初代を祀ってある、らしい…それから、道摩と協力している烏天狗が棲むとか」
「…それなんだけど、どうしてりいは立ち入れない?」
「え…?」
りいは、虚を突かれて問い返す。
「え…それは、私は長でもないし…女子だから…血の…穢れもあるだろうし」
これまで当然と思い、気にしたこともなかった。
血の穢れ、などと流石に言いづらく、何を考えているのかと晴明を見ると、晴明は首を捻っていた。
そして、とんでもないことを口にした。
「だって…万尋さんや一碧さん、は、入ってるのに?」
一瞬りいの思考が止まる。
「え…ええっ!?」
「だってそうだよね、りいの話からすると…」
「どういう、ことだ」
思いもかけないことに、りいは混乱する。
一碧は山に入っている?そんなことは初耳である。
だがしかし、晴明の表情を見ると、一笑に伏すことはためらわれた。
「それは…」
晴明は説明しかけて、ふと表情を変えた。
すっと立ち上がる。
「ごめん、陰陽頭のとこに行かなきゃ。りいは少し寝てるといいよ。日が高くなるともう暑いから」
「あ、ああ…」
釈然としないが、仕事と言われてはそれ以上追及することもできない。