道摩の娘
「…りいは愉快だねえ」

 にこにこと晴明が言う。

 その眼前でりいは、謎の唸り声をあげたり、赤くなったり青くなったりしている。

(なんで柄にもなく赤くなったりしたんだ私は!気色悪いだろうどう見ても!)

「あのねー、半分くらいは本気なんだよ一応。また怪我して帰ってきたら怒るからね、…って聞いてる?りい…聞いてないね」


 と、その時。

 薄闇を切り裂いて、一羽の白い鳥が飛び込んできた。

 もちろん普通の鳥ではない。

 その鳥は晴明の差し出した掌にぽとりと落ちると、一通の文に姿を変えた。

 りいには藤影がいるので縁がないが、陰陽師のあいだでは便利に使われている術である。

「…保憲兄さん」

 晴明がつぶやいて、文を開いた。

 さらりと目を通す…うちに、その表情が変わった。

「…どうした」

 りいもさすがに唸り続けている場合ではないことを悟り、晴明に問いかける。

 晴明は無言でりいに文を渡した。視線で読むように促す。

 りいは文に目を落とした。きっちりとした折り目と、心棒が通っているかのように真っ直ぐな文字が非常に保憲らしい。

 だが、そんなことに感心している場合ではなかった。

「…なんだと」

 じきに、りいの唇からも困惑がこぼれた。

 そこには…これまでに攫われた貴族の姫君たちが戻ってきた旨が記されていた。

 しかも、全員無事だという。

「晴明、これは…」

「これではっきりしたのは、」

 晴明が小さく息を吐く。

「この件の裏は、あの万尋って人じゃなかったってことだ」

「なら、今までのことは何のために…?」

「それは…わからないけど。でも、もしこの件がこれで一段落したなら、次は…」

「万尋様の可能性が高い、か」

 りいが言葉を引き取り、晴明は頷いた。

「そういうこと」

「なら、どうするんだ。警戒を強めたほうがいいんじゃないか?」

 りいの言葉に、晴明が眉を寄せた。
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