道摩の娘
 詮子の訴えに、りいははっと身を強張らせた。

 りいにはまだ何も感じられないが、この姫君の見鬼の才は確かである。

 まさか、今しがた危惧していたように、万尋が訪れたというのか。


「超子様」

 りいは小さく名を呼んだ。

 詮子を抱きしめながら、彼女はこちらを向く。

 超子の顔にも、怯えが走っていた。

「私が見て参ります。お二人はどうか、邸の奥に…」

「ま…待って、あなたは大丈夫なの?お怪我は…」

 超子は、気丈にもりいを気遣う。

 先日、超子に傷のことを知らせたのを気にしていたのか。

 りいは彼女を安心させるように笑った。

「大丈夫ですよ。この邸には結界も張ってありますし…」

「でも…」

 尚も食い下がる超子に、りいは首を振る。

「姫をお守りできねば、何の為の術師ですか。ここはお任せ下さい」


 そう言うと同時に、りいは身を翻した。

 貴族の邸宅というにも関わらず、廊を全力で駆け抜ける。

 途中、すれ違った使用人が何事かと振り返るが、かまっている暇はない。

 草履を履く時間も惜しく、外に飛び出す。


 正直なところ、傷はまだ痛む。

 だが、しかし、万尋にこれ以上の殺戮を許すわけにはいかない。

(それに…)

 例え力が及ばずとも、誰か、他の術師が辿り着くまでの時間稼ぎにでもなれば充分だ。

 無意識に、誰か、の部分に晴明を重ねつつも、りいは刀に手を掛けた。

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