秘密

壁掛け時計に目をやると、午前3時。

明日も学校だ。
そろそろ帰って寝ないとヤバい。

「そろそろ帰るか、送っていく」

「……うん」

立ち上がり厨房の奥の休憩室からメットとジャンパーを取りに行く。

最後に戸締まりの確認をして、全ての電機を消し、引き戸に鍵をかけてシャッターを下ろす。

さすがに平日のこの時間は、辺りは人気も少ない。

「…バイク?」

メットを手に持った俺に美里が聞いてきた。
俺がバイクに乗る事は、奏以外に学校で知ってる奴は居ない。

何故かって?
校則違反だからさ。
もしバレて停学になったら困るだろ?

「うん。バイク、学校には内職な」

店の横からバイクを引っ張り出す。

「全然知らなかった…茜、バイクに乗るんだ」

「…知ったら乗せてって言うだろ?」

「…はは。確かに言うね?」

「だろ?そう言うのウザい」

「…そんな言い方しなくったって…やっぱり茜ってどこか冷たい…」

「……悪かったな、冷たくて」

「…ふふふ。でも、今日は初めて茜に優しくされたかも?」

「…俺ってそんなに冷たいか?」

「冷たいって言うか…どこか冷めてる?って感じ、他人とあまり関わりたくないのかな?」

確かに俺はバスケが出来なくなってからは、極力人と関わるのを避けてきた。
こっちに越してきてからもその癖が抜けないらしい。

一人暮らしを始めてからは、学校とバイトの往復で、他の奴等みたいに遊ぶ暇もあんまないし、友達とかも居ないしな。

はは。
俺ってば結構寂しいやつ。

「そうでもないぞ?基本俺は優しい男だ」

「…うん。今日はじめて茜とまとも話したみたい、学校とは別人みたい、でも、こっちの茜の方が好き…」

そう言って笑う美里。

「…やっぱりあたし、茜が好きだな、ね?セフレでもいいから付き合おうよ?」

「…またお前は…さっき自分大事にしろって言っただろ?」

「…わかってるわよ…冗談よ、冗談、あはは」

「ほら、帰るぞ」

メットを美里に投げてよこす。
美里はそれを受け取り、

「うん」

笑顔を見せる美里の表現は、とても自然で、素直に可愛いと思えた。


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