秘密






「いらっしゃい♪俺、恭介って言うの。キョンちゃんって呼んでね?二人とも可愛いね?後でお兄さんと遊びに行こうか?あ。メアド教えてくんない?」

響屋のいちばん奥のテーブルに座る私と美樹ちゃん。

恭介と名乗る大学生位の男性が、私達のテーブルに串焼きの盛り合わせを置きながら、にこやかに話しかけてきた。

なぜ私達がここに居るかと言うと、それは今朝の佐野君と美樹ちゃんと拓也君の会話。



『行ったらダメだから』

『ちょっと佐野君!何でダメなのよ!』

『ダメだから』

『理由は?』

『ダメだから』

『ダメダメじゃわからないでしょ?拓也からも何か言ってよ』

『佐野、何でダメなんだ?そんなに感じ悪い店じゃないよ?女性のスタッフも居るし、いかにもホストクラブ!って感じでもないしさ…』

『ダメだから』

『…話しにならないわ…ね?かなちゃんも行ってみたいよね?』

『へ?…う、うん』

『…とにかく、カケルさんの店はダメ…どうしても行きたいんなら、俺のバイト先に来て、何でもオゴるし…』

『…それ、ホント?…』

『うん』

『やった♪今日行くね?オゴりでよろしく♪』



と言う訳で、学校が終わって一度自宅に戻り、お泊まりの用意をして美樹ちゃんの家に帰り、それから二人でバスでここまでやって来た。

怪我してるからか、佑樹からの連絡も来なかったので、私は久々の開放感と居酒屋と言う、ちょっと大人の世界に少しだけ浮かれていた。

「奏ちゃん?だっけ?」

「あ、はい。奥村奏です」

「いや〜。ホントに綺麗な子だなぁ♪美樹ちゃんも可愛いし♪俺どっちにしようか迷っちゃう、あはは♪…あでっ!」

「…キョンちゃん、表…掃除して…」

佐野君が恭介さんの背中をホウキで突いた。

「…茜…それ…リアルに痛い…」

「…包丁で突かれたい?」

「……遠慮します、掃除して来ます」

恭介さんは佐野君からホウキを受け取り、引き戸の外に出で行った。

佐野君はこの店の制服なのか、【響】とプリントされた黒いTシャツに、頭には同じようにプリントされた黒い手拭いを巻いて、腰には同じく黒く短めの前掛け。

ホントに高校生には見えない佐野君。


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