秘密



四月とは言え、夕暮れになってくると、まだまだ外は肌寒い。

さっきまで温かいベッドの中に居たから、余計に寒く感じる。


バス停のベンチに腰掛け、両手を擦り合わせる。


もうバスの時刻なのに、まだ一向にバスはやって来ない。


時間を確認しようと、スカートのポケットから携帯を取り出すと、待ってたかのように振動した。


たまにあるよね?
携帯開いた途端に電話かかって来たり。


それは電話ではなくメール。
開いて見ると、佐野君から。


『今何してる?』


一言。


何してる?だって。
私の事気にしてくれてる?


なぜかその一言が嬉しくて、私は口元が緩んだ。


佐野君に返信。


『家に帰るとこ、今バス停でバス待ち、佐野君は何してるの?』


すぐに返事がきた。
早。ふふ。


『バイト中』


また一言。


『バイト中って、メールなんかしてていいの?』

『休憩中だからいい』

『バイトって、何やってるの?』

『居酒屋』

『バイトは禁止だよ?それに居酒屋って、高校生がやってもいいの?』

『奏が黙ってたらいい』

『ばらしちゃおうかなぁ?』

『やめて』

『嘘だよ、ばらしたりしないよ』

『うん、そうして、休憩終わり。また明日ねバイバイ』

『バイバイ、また明日』


携帯を閉じると、さっきまで寒かったのも忘れてしまっていた。


顔がほころぶ。


また明日。
ふふ。


バスがやって来て、ステップに足をかけ飛び乗る。


何だか足が軽い。


いつもは佑樹の家から帰る時は足が重いのに。


帰りにスーパーに寄って帰らなくちゃ。


今日の夕飯はカレーにしようかな?


お父さんも私のカレー大好物なんだよね。


あ、お味噌も切れてたな。


そんな事を考えながら、ふと窓に移った自分の顔を見ると、そこには笑顔の私がいた。


笑顔と言うか、ニヤケてる?


やだ。
一人でニヤケてるなんて、誰かに見られてないよね?


辺りを見回してみた。


…ほっ。
大丈夫みたい。


バスのシートにもたれながら、ぼんやりと流れる風景がいつもと違う風景に感じられた。


そうだ。
スーパーでプリンを2個買って帰ろうかな。


カレーの後にお父さんと一緒に食べよう。



< 16 / 647 >

この作品をシェア

pagetop