秘密
四月とは言え、夕暮れになってくると、まだまだ外は肌寒い。
さっきまで温かいベッドの中に居たから、余計に寒く感じる。
バス停のベンチに腰掛け、両手を擦り合わせる。
もうバスの時刻なのに、まだ一向にバスはやって来ない。
時間を確認しようと、スカートのポケットから携帯を取り出すと、待ってたかのように振動した。
たまにあるよね?
携帯開いた途端に電話かかって来たり。
それは電話ではなくメール。
開いて見ると、佐野君から。
『今何してる?』
一言。
何してる?だって。
私の事気にしてくれてる?
なぜかその一言が嬉しくて、私は口元が緩んだ。
佐野君に返信。
『家に帰るとこ、今バス停でバス待ち、佐野君は何してるの?』
すぐに返事がきた。
早。ふふ。
『バイト中』
また一言。
『バイト中って、メールなんかしてていいの?』
『休憩中だからいい』
『バイトって、何やってるの?』
『居酒屋』
『バイトは禁止だよ?それに居酒屋って、高校生がやってもいいの?』
『奏が黙ってたらいい』
『ばらしちゃおうかなぁ?』
『やめて』
『嘘だよ、ばらしたりしないよ』
『うん、そうして、休憩終わり。また明日ねバイバイ』
『バイバイ、また明日』
携帯を閉じると、さっきまで寒かったのも忘れてしまっていた。
顔がほころぶ。
また明日。
ふふ。
バスがやって来て、ステップに足をかけ飛び乗る。
何だか足が軽い。
いつもは佑樹の家から帰る時は足が重いのに。
帰りにスーパーに寄って帰らなくちゃ。
今日の夕飯はカレーにしようかな?
お父さんも私のカレー大好物なんだよね。
あ、お味噌も切れてたな。
そんな事を考えながら、ふと窓に移った自分の顔を見ると、そこには笑顔の私がいた。
笑顔と言うか、ニヤケてる?
やだ。
一人でニヤケてるなんて、誰かに見られてないよね?
辺りを見回してみた。
…ほっ。
大丈夫みたい。
バスのシートにもたれながら、ぼんやりと流れる風景がいつもと違う風景に感じられた。
そうだ。
スーパーでプリンを2個買って帰ろうかな。
カレーの後にお父さんと一緒に食べよう。