秘密


「さ。出来た、鏡見てみて」


静さんに促され、ドアの横の姿見の前に立つ私は一瞬、誰?と思ってしまったけど、それは間違いなく私自身で…

髪の毛はフワフワに揺る巻きされていて、今朝のお蝶婦人とは大違いで、私の黒く重苦しく感じる髪も綺麗に肩にふわりと流れていて。

メイクもオレンジ系で夏っぽいナチュラルメイク。

まつげもマスカラでボリュームアップされていて、瞳が更に大きくなったみたい。

どちらかと言うと少し青白い顔が嫌だった私は、それを隠すように髪の毛もいつも下ろしていた。

でも目の前の私は、そんな事は全然無くて、むしろ凄く健康的で明るい顔をしていた。

「…静さん、凄い。魔法使いみたい」

「ははは。そう?ありがと、でもホントにちょこっとメイクしただけだよ?奏ちゃんは素がいいから、少しやるだけでもパッと華やぐね?」

「私、ちゃんとしたお化粧なんて初めて…ありがとうございます、静さん」

鏡を見つめたままそう言うと、後ろから静さんが私の肩に手を置いて、鏡の中の私ににっこりと微笑むと、

「静さんじゃなくて、お兄ちゃん。後、敬語も無し、ね?」

私も鏡の中の静さんに笑顔を返した。

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

「はは。よく出来ました♪」

私の頭を撫でてくれる静さん。

…ああ、佐野君の家族ってホントに暖かい…

みんな凄く優しくて。

こんなに温かいお家で今の佐野君は作られたんだ…


それから私は静さんとお喋りしたり、お気に入りのDVDを私にくれたりして、楽しく過ごしていると、

「兄貴。奏こっちだろ?」

ノックもせずに佐野君が入ってきた。

見ると寝癖で佐野君の髪の毛は、かなり広がってしまっていた。

「全く、油断も隙もない…と…ソレ?兄貴がやったの?」

私を指差す佐野君。

「うん。俺がやった♪どうだ?可愛さ倍増だろ?惚れ直した?」

「……まあ……うん」

うつ向き頭を掻く佐野君。

惚れ直したって、うん、って…

…どうしよ、なんか、嬉しいんだけど、ドキドキする。

「あ〜あ…お前頭…爆発してんじゃん。切ってやろうか?」

前髪を摘まむと佐野君は、

「…そうだな…切りに行くのも面倒だし、頼むよ、兄貴」




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