秘密


「その前に、潮でベタベタの髪の毛を綺麗に洗い流してこい」


静さんにそう言われて佐野君は、素早く入浴をすませて戻ってきた。

その時間わずか10分足らず…

「お前、早っ!ちゃんと洗ったか?」

「シャワーだけ、ちゃんと洗った」

そう言いながらタオルでゴシゴシと頭を拭きながら、フローリングにドカッとあぐらをかく佐野君。

静さんはドライヤーで佐野君の髪を乾かし始めた。

「いいな、佐野君、お兄ちゃんが美容師で」

「は?何がいいんだ?」

「だって専属のスタイリストさんが付いてるみたい」

「まあ、床屋代はかかんないかな?」

佐野君がそう言うと、

「床屋は理容師!俺は美容師!一緒にすんな!」

「どっちも一緒だろ?」

「違う!美容師は女性を美しく彩るんだぞ?頭の先から爪先まで、床屋なんて顔反りと肩揉みだけだ!お前な?俺、こう見えても指命No.1なんだぜ?予約制で一週間待ちなんてザラなんだ、ありがたく思えよ?全く…」

と、ブツブツ文句を言いながらも、手は休む事なくドライヤーで乾かしていく。

乾かし終わると、クローゼットの中から、持ち手が付いた箱と長めのケープとタオルを数枚。

箱の中には大量のヘアピンや、恐らく美容師専用のハサミなどが沢山入ってて、ホントに静さんは美容師なんだと改めて実感してしまって、その道具達を繁々と見つめてしまった。

佐野君は慣れているのか、静さんにされるがままに大人しく目を閉じていた。

ピンで幾つも髪の毛を掬って留めていき、ハサミを取り出し静さんは、ショキショキと軽い音をたてながら、リズミカルに佐野君の髪を切っていく。

こんなに美容師さんの仕事を間近に見た事が無いから、静さんのその動きに私は興味津々だった。

静さん、ホントに魔法使いみたい…

「……素敵」

思わず言葉が漏れてしまった。

「え?俺が?」

佐野君がピクリと反応した。

「違うよ、しず…お兄ちゃんが」

「あはは、俺か?ありがと、奏ちゃん♪」

「……何で兄貴なんだよ…」

「だって、お兄ちゃんの指先、魔法使いみたい、メイクも出来るし、いいなぁ、憧れちゃう…」

「はは。奏ちゃんも美容師になる?」

……私が?

……美容師?



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