秘密


一緒にお風呂に入りたがる佐野君を何とか説得して、先にお風呂に入ってもらい。


私はとりあえず濡れた洋服を着替え、タオルで頭を拭いて一息つく。


時間を確認すると午後8時前。


そろそろ帰らないと…


窓の外を見てみるといつの間にか雷は止んでいたけど、雨が酷くてまだ帰れそうにない。


リュックから携帯を取り出して、お父さんに電話をしてみる事にした。


四五回程コールしたら。


『はい』

「…お父さん」

『どうした?奏』

「…雨が酷くて、まだ帰れそうになくて、もう少し小降りになったら帰るから…」

『それは構わないよ、でも、あまり遅くなるようなら、タクシーで帰ってきなさい』

「…うん。わかった、お父さん夕飯は?」

『お父さん今日も仕事で、実はまだ会社なんだよ、遅くなりそうだから、帰りに適当に食べて帰るよ…お父さんの事は気にするな』

「うん……あの、お父さん…」

『ん?何だ?』

「…昇進…おめでとう…」

『ああ…佑樹君から聞いたのか?』

「…うん」

『ありがとう…実はお父さん、今大きな仕事任されてるんだ、だからね?今まで以上に忙しくなるかもだけど、奏の為にも頑張るよ、また家でも建てようかな?はは』


……家なんていらない
佐野君が近くに居ない生活なんて…
それに…私の為なんかじゃ無いでしょ?


「…そんなのいらない、今のうちがいい…」

『そうか?せめてもう少し広いマンションに引っ越そうかと考えていたんだけど…』

「嫌っ、今のままがいいっ」

「……そうか」


お父さんは暫く黙り込んでしまって、私はお父さんに謝るつもりだったのに中々言い出す事が出来なかった。


お互い沈黙の電話越しから。


『…健吾さん?どうかしたの?』


女性の声が聞こえてきて、それが成美さんの物だとわかって私は。


「…じ、じゃ、雨が落ち着いたら帰るからっ」


そのまま電話を切ってしまった。


お父さんホントに会社に居るの?
…その人と二人きりなの?


お父さんが幸せにしているかと思うと、私の中の醜い感情がそれを許す事が出来なかった…


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