秘密




「ヤバ!降ってきた!」


佐野君のアパートまで後10分程でたどり着くかと言う時に、雨が降ってきた。


佐野君の家を出る時は晴れていたんだけど、徐々に雲行きが怪しくなってきて、ついに降りだしてしまった。


暗くなりかけの、遠くの空の灰色の雲の隙間が時々ピカッと光って、私はさらに力を入れて、ギュッと佐野君にしがみついた。


……雷…近付いて来てる?…


「もう直ぐだから!このまま走る!」

「…うん!」


雨足は段々と酷くなり、容赦なく私達の身体を濡らしていく。


バイクのエンジン音の隙間から雷の音が近付いて来て、私はさらに身を固くする。


アパートに着くと佐野君はバイクを停めるのもそこそこに、私の手を引きアパートの階段を掛け上がる。


佐野君が鍵穴に鍵を差し込んでいる時。


−−ガラガラ……ドカッ!!


「ひゃあぁっ!」


一際大きな落雷の音がして、私はパニックに陥り、その場に踞ってしまった。


佐野君はドアを開けると私の脇に手を差し込み抱えると、素早くドアの中へ。


着ていたジャケット脱ぐと、それを私の頭に被せてギュッと抱きしめてくれて。


「…もう大丈夫」


何度も大丈夫、と呟きながら優しく頭を撫でてくれる佐野君。


……佐野君。


私が雷苦手って覚えてくれてたの?


…トクン…トクン…と。


Tシャツ越しに聞こえる佐野君の心音。


佐野君の背中に手を回し、その優しい音色に意識を集中させると、次第に落ち着きを取り戻していく。


もう雷の音は気にならなくて、佐野君の心音だけが私の意識の中に入ってくる。


アパートの狭い玄関で、お互いずぶ濡れで暫く抱き合っていると。


「…クシュッ」


佐野君のくしゃみが聞こえて、私は慌てて身体を離した。


「佐野君、お風呂入ってきて?身体冷えたでしょ?」

「いや、大丈夫、奏こそ冷えただろ?先に入れば?」

「私はいいから、佐野君が入って!」

「……じゃあ、一緒に入る?」


カッ、と一気に頭に血が上ってしまった。


……佐野君…


それだけは勘弁して…


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