秘密





更衣室で岡崎先生からTシャツを借りて着替えていると、美樹の携帯が鳴り出し。



「あ…、さっき電源入れたから…」


「出ても大丈夫だよ?」


「すみません…」



美樹は携帯を開いて耳にあてると。



「拓也?…うん。ごめんね。今病院に居るんだ……」



背を向けて、部屋の隅へと移動しながら話す美樹。



拓也に今の状況を説明してるようだ。



「汚れた服、コレに入れなよ」



岡崎先生は俺に小さな紙袋を差し出してくれて。



「すみません、ありがとう、ございます…」


「いいって、気にしないで」


「あの……」


「ん?何?」


「……奏は、どの位入院が必要なんですか?」


「僕は今は救急救命の研修中で、担当の医師じゃないから、そこまで詳しくはわからないんだ、ごめんね」


「……そうですか…」


「でも、怪我の具合からして、恐らく入院は1ヶ月位かなぁ?あくまで僕の予想だけどね」



………1ヶ月間。
夏休み中はずっと入院って事か。



「佐野君……、今日は取り止めにしようって、拓也がキョンさんに連絡入れるって……」



電話を終えた美樹が俺にそう言ってきて。



「……うん。美樹ちゃんは?どうする?今日はバイトだっただろ?」


「かなちゃんが行けないから、あたしは余計に行かなくちゃ、お店に迷惑かけちゃうし……、カケルさんにも、事情、説明しないと…」


「……そうだな…」


「佐野君……、大丈夫?」



美樹は今にも泣き出しそうな表情で俺を見上げていて、俺はそんなにひどい顔をしてるのかと思い、美樹に心配させないように、無理矢理笑顔を作ろうとするけど、上手く笑う事が出来ない。



「………、あんまり、大丈夫じゃ、ないかな?」



思わず出た本音に苦笑すると。



「佐野君……」



益々美樹を心配させてしまったようだ。



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