秘密



開けられたドアの中に入ると、広い空間の壁際にズラリとロッカーが並べられていて、中央には折り畳み式の長机と椅子。



更衣室。と言うよりも、何処かのスタジアムの控え室を思い出させた。



「適当に座ってて」



岡崎はそう言うと、沢山並べられた、ロッカーの中のひとつを開けて、ゴソゴソと中を物色すると。



「あ。あった、あった」



何かを取り出しパタンとロッカーを閉めて。



「佐野君?だよね?コレよかったら着て」



差し出されたのは、白いロゴT。



「……あ…、何で、俺の名前…」


「処置室で…、奏さんが、うわ言でその名前呼んでたから……、もしかしたら君の事かなって…」


「……奏が?」


「うん。意識は曖昧だったけど、なんか、僕の事…、佐野君だと勘違いしてたみたいで……」


「他に……、何か言ってましたか?」


「途切れ途切れで、ハッキリとは聞きとれなかったんだけど、ごめんね、とか、待ってる、とか…」


ごめんね?
待ってる?



そう言えば、今すぐ話したい事があるって言ってた。



もしかして、決勝戦に行けなくなった事を気に病んで、それを伝える為に、走って俺を追いかけて来てくれたのか?



事故直後に奏が言った言葉を思い出そうとするけど、その時は完全に気が動転してしまっていて、何を言っていたのか思い出す事が出来ない。



奏………



決勝戦の事ならもういいよ、そんな事、どうだっていいんだ。



奏が無事で、また秘密の関係が続いたって、俺はそれでもいいよ。



何より奏と一緒に居られる事の方が大事だから。



奏と離れるなんて考えられない。



佑樹と俺との間で奏が辛い思いをしているのを見るのは辛いけど、それでも俺の側に居てほしいと願ってしまう俺は。



ホントは最低な男なのかも知れないな……



けど……



どうしようもなく、奏の事が好きなんだ。



……、ごめん……奏。




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