秘密
◇第18話◇
◆◆◆





−−ガシャン!



突然の破壊音に我に返れば、今まで手に持っていた筈のグラスが、足元で粉々に砕け散っていた。



「あちゃー…、何やってんの?茜、もう何個目だよ?」


「あ……、ごめん…」



響屋のカウンターの下。
割れたグラスを拾い集める為にその場にしゃがみ込む。


「……茜、お前、大丈夫か?」



マスターが厨房の暖簾を片手で開きながらそう言ってきて。



「うん…、ごめんマスター…また割っちゃって…」


「そんな事はいい、それより気を付けろ、怪我すんな…」


「うん……」



言いながらグラスの破片を拾い集めていると、右手の人差し指にチクリと痛みが走った。



手を広げて見てみると、1センチ程切れた指先から血が流れ、掌を伝って流れていく。



それをじっと見つめていると、ホウキとちり取りを持った恭介がカウンターの中に入ってきて。



「あっ。お前切ってんじゃん、何やってんだよ、全く…」



恭介はその場にホウキとちり取りを置いて、後ろの棚のいちばん上にある救急箱を取り出しカウンターの上に置く。



「ほら、そこは後にして、傷口綺麗に洗え」


「茜…、お前言ってる側から…」



マスターが厨房から出てきて、カウンターの中に入ってきた。



「ここは俺がやるから、キョン、あっちで手当てしてやれ」



ホウキを掴みながらマスターはカウンターの向こう側を顎でしゃくる。



「ほら、こっち来い、茜」



俺は言われるがまま、傷口を洗うとカウンターの椅子に腰を下ろした。



「ごめん、マスター…」



しゃがんでグラスを片付けている、マスターのスキンヘッドに向かって俺はそう言った。



「あ?ああ…、気にすんな。グラスならいくらでもあるからな」


「ほら、手ぇだせ」



カウンターの上に腕を乗せ、掌を広げると、恭介は傷口に消毒液染み込ませたコットンを押し当てる。



少しだけ傷口に染みて、チクリと痛んだ。




< 526 / 647 >

この作品をシェア

pagetop