秘密






名残惜しいけれど、洋介さんとおばあちゃんとは談話室で別れて、マサキ君は大事にそうに洋介さんから貰ったバスケットボールを抱えて、自分の病室へと戻っていき。


私は岡崎先生と病室に戻ったけれど、まだまりあちゃんはお昼寝中だったので、同じ階の外科診察室へと岡崎先生と一緒にやって来た。


外来の診察室より簡易的だけど、ちょっとした診察や付け替えや、治療の説明などをする為の部屋でもある。


岡崎先生はデスクの回転椅子に座り、私はその横に置かれているパイプ椅子に腰を下ろした。


岡崎先生は電気が点る掲示板にレントゲン写真を貼って、私に検査の結果を説明してくれた。


「ほらここ。見てわかると思うけど、もう大体綺麗にくっついてるよ。さすが10代は治りも早いよね、でもまだコルセットは外さないでね?なるべく負担をかけない方がいいのには変わりは無いから」

「はい」

「今日は頭の傷の付け替えはやったのかな?」

「今日は付け替えはまだです」

「だったら付け替えついでに頭の傷も見てみようか?」

「岡崎先生が付け替えてくれるんですか?」

「嫌かい?」

「いえ、そう言う訳じゃ…」


付け替えって看護師さんの仕事だと思っていたから、医師である岡崎先生が付け替えをしてくれるなんて思ってもみなかったから、私が岡崎先生にそう言うと。


「ははは。研修医なんて、看護師よりも下っぱなんだよ、付け替えなんてしょっちゅうやってるよ。じゃ、傷口見せてね?」


岡崎先生は立ち上がると、私の頭に巻かれた包帯を、くるくると器用に掌で巻き取りながら外してくれて、その手際は前田さんよりも素早くて少し驚いてしまった。


「こっちも大分いいみたいだね、もう包帯も要らないだろうけど、研修医の僕が勝手な判断で決められないから、いつもやってるように消毒だけやっとくね?」


岡崎先生はデスクの横のワゴンを引き寄せ、付け替えの準備を始めた。


「あの…、岡崎先生?」

「ん?何だい?」


傷口に当てがうカーぜのセロファンを剥がしながら岡崎先生はそう言って。


「……この間言ってた、催眠療法の事なんですけど…」


岡崎先生の手がピタリと動きを止めた。



< 600 / 647 >

この作品をシェア

pagetop