秘密




ミタさんがドアをノックすると。


「入れよ。佐野」


佑樹の声がして、ドアを開けて中に入る。


二十畳はあるだろうか?白と黒のモノトーンで統一された、下のリビングとは違って、いたってシンプルな部屋だった。


壁に添って、テレビ、ベッド、ソファー、本棚、机。


ひとつ変わっていたのは、本格的な製図器具と製図台。


製図板上にT定規、勾配定規、縮尺定規などの製図道具の機能がついた、アームまでがついている製図台。


普通の高校生の部屋にはないようなもの。


「座れば?」

「あ。うん……」


言われてソファーに腰を下ろすと、その横にはデカいキャリーバッグ。


「もう直ぐ出掛けなきゃならないんだ」


旅行にでも行くのだろうか?佑樹はそのキャリーバッグをドアの横まで引っ張ってそこに立て掛けると、製図台の前の椅子に座り、椅子ごと身体を俺の方に向ける。


「……で?話って?」


いきなり切り出す佑樹に俺は。


「奏と別れてくれ」


率直にそう答えた。


「………お前さ?」

「何?」

「言ってる事がおかしいだろ?」

「そうか?」

「それは俺が言う事だろ?」


佑樹がそう言って、俺達は暫し無言でお互いの顔をじっと見ていた。


−−コンコン…


沈黙を破ったのはミタさん。


「お茶をお持ちしました」


ノックをして部屋に入ってきたミタさんは、俺が座るソファーの前のテーブルにアイスコーヒーを置くと。


「失礼します」


そう言って部屋から出ていき、佑樹は立ち上がりアイスコーヒーを手に持つと再び椅子に腰を下ろした。


「話は、それだけ?」


コーヒーを啜りながら無表情でそう言う佑樹にカチンときた。



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