秘密
奏をあんなに泣かせてしまった……
自分の為だけに一方的に別れを奏に告げた。
俺の事を責めるような、怒りを帯びた眼差しで、肩を震わせながら、その大きな瞳から大粒の涙を溢して。
震える肩に手を伸ばしてしまいそうになりながらも、俺は必死でそれに耐えていた。
俺さえ奏の前に現れなければ。
奏に辛い思いをさせる事なんかなかった。
俺がこんなにも奏を好きにならなければ。
奏を泣かせる事もなかったんだ。
それがわかっているのに、そんな事出来る訳がない。
俺との繋がりを、所々で垣間見る事があって、でも奏は何一つ覚えてなくて。
正直、始めは微かな期待すら持っていたんだ。
でもそんなのは俺の身勝手な思い上がりだって事に気付いた。
……結局、俺じゃ奏に何もしてやれない……
ホントに自分勝手でサイテーな男だ……俺は…
俺はこんなにも情けなくて、子供で、たった一人の女の子でさえ泣かせてしまうようなダメな男なんだ。
もう二度と……
奏を困らせるような事はしないから。
俺の事なんか思い出せないままで、そのまま忘れてしまっていいから。
せめて………
俺のこの気持ちだけは。
ずっと俺の心の中に居させてくれないか?