きみの声がきこえない

きみの声がきこえない


「痛っ!!」

「ご、ごめん」


ちょうど家は誰も居なかった。

陽介をリビングまで通し、傷を消毒した。


陽介は平気と言っていたわりに、痛そうにひいひい顔を歪めた。


独特の匂いが鼻をつく。

がっしりとした陽介の腕を、消毒液が伝っていく。


あたしはそれをティッシュで丁寧に拭き取り、傷口にガーゼを当てた。


「しみる?」

顔をあげると陽介とすぐ近くで目が合った。


一瞬時間が止まったみたいになった。


あたしの視線と、陽介の視線が、真っ直ぐ交じり合って、

何だか熱くて、目が逸らせなかった。


それでもそれに我慢できなくなって、パッと目を逸らした。


さっきの踏み切りの時に感じたのとはまた違う風に、

心臓が忙しなく跳ねた。
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