ひとりぼっちの君へ
カラオケで流行の歌を歌う俺達は、どこから見ても普通の高校生で、俺はその中の一人に属している。
だけど、いつまでも一緒に居れないことだってちゃんと解っている。
1年後、俺達は別々の場所にいるんだ。


今を、楽しまなきゃいけないって、そんな義務感を抱えているように、俺達は仲間とつるんで、遊んで

そして、恋をする。


「松本くん」


西村の隣に座っていたはずの椎名さんが、いつのまにか俺の隣に居る。
次に曲を入れろと言って俺にリモコンを渡してきた西村はどこに行ったのか。
そう思って顔を上げると、違う女子に腕を引かれて経ちながら歌う西村と目が合った。


「なに?」


西村から目を逸らして、俺は椎名さんにだけ聞こえるぐらいの大きさで返事をする。


「何歌うの?」
「いや、今決めてたとこ」
「ふーん、あっ、私ね、あれ歌ってほしい!」


無邪気にそう言うと、彼女はぐいっと俺に近づいてリモコンを覗き込む。
不覚にも俺の心は跳ねた。だっていい匂いする。


人工的ではない、洗剤とかシャンプーのような優しい香り。


そして、一緒にリモコンを覗き込む顔が、近い。
誤摩化す様に顔を上げて西村を見ると悔しそうな表情を向けられる。
俺を恨むなよ…。


「ね、松本くん、これ」
「え、あぁ」


俺の返事を聞く前に椎名さんは送信ボタンを押して、そして目の前でにっこりと微笑んだ。

その笑顔は計算なのか、天然なのか。

そんな風に笑われてぐっと来ない男がいるのだろうか。いや、いないだろう。


椎名さんと、何気ない会話をしているうちに曲順は巡ってきてマイクを渡される。
俺がマイクを握った瞬間、西村が当然のように間に割り込んできた


「ねぇねぇ、椎名さんってさぁ」


いつもより2つ分ぐらいテンション高い声で。
まぁ、いいけどさ、別に。


別に誰も聞いていない歌を、俺は機械のように歌う。うまくもなく、下手でもなく。
あぁ、俺の人生、こんな風に可もなく不可もなく過ぎていくんだろうなって思うと、なんだか少しだけ泣きたくなった。


椎名さんが俺に歌ってほしいと言って入れた曲は、甘ったるいラブソングだった。




< 2 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop