ひとりぼっちの君へ
それからはさっき思っていた通り、時間の区切りのいい所でカラオケを終えて、ファーストフードで適当に食べて、そこそこの時間に解散。

日の長くなった空が、夏の訪れを教えていた。


「松本」


呼ばれた名前に振り返る。視線の先に居たのは西村だった。
あれ、こいつって家の方向逆…。


「いたたたたた」
「お前ばっかり椎名さんと話やがって!」


なんでこっちに?と尋ねるより早く、西村は俺の首を閉めてくる。
じたばた暴れる俺に「観念したか!?」と言ってくるから、訳も解らず俺は必死に頷く。
ようやく解放された首を俺は思わずさすった。


「別に好きで話してたんじゃねーよ」
「へー。ま、いいけどね。」


あっさりとそう言った西村は、得意げに携帯電話を取り出す。
大きな画面に映し出されたのは番号と名前。


「ゲットしちったー。若菜ちゃんの」
「若菜?」
「椎名若菜。お前、名前知らないのかよー」


勝ち誇ったように「名前で呼ぶ許可もらったもんねぇ」と西村ははしゃぐ。
いや、別に、悔しくないし。

さっきカラオケで高鳴った鼓動は勘違いだ。勘違い。それか男としての本能。
なんだかんだ言って椎名さんは可愛いのだから。


「まぁ、頑張れ。」
「それにはお前の協力が必要だ。」


真剣な、眼差し。


逃げ出そうとする俺の腕を西村はがっしり掴んで離さない。


「おまっ、何」
「デートに誘ったら、松本くんも一緒ならって言われちゃったんだよ」
「そんなんだったらいつまでも…」
「しかも、山下も誘われて…。だから松本、山下の相手頼むな」


びしっと親指を立てて「作戦は完璧だ」なんて言う西村に俺は瞳を細める。
それはどう考えても山下が西村のことを好きなんじゃねーか。

さっきカラオケで西村の腕を掴んで離さなかった山下が脳裏に映って、そう思った。



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