仮病に口止め料

付き合って半年、デートの度に撮影する(背景選びやら落書きのスタンプ探しやら混乱しがちな)プリクラで見慣れてきたから、

絶対な自信を持った俺が「チーク変えた?」と、ドヤ顔で尋ねると、

「ううん」と写真よりも可愛い笑顔で即答され、気まずさを覚える高二男子。


湯上がり風にほてって見えたのは、彼氏の驕りだったらしい。


「お嬢さん、そろそろ行きますか」

「はい、おっさん」

甘い台詞よりも寒い会話を重ねに重ね、笑いの沸点が引くぐらい低い恋人・田上結衣を隣に飾れば、

すれ違い様に彼女をさらって脳みそで飼う男を警戒する俺が、

(さぞアホなのだろうけれど)お姫様を護る騎士に変身するのが恒例だ。


社会に守られた下でじわりと汗をかく九月らしい陽気の中、約十分かけて楽しいお喋りを歌に学校へ向かう――……




……――そう、朝の登校風景に起承転結の起が存在しないことは、この安い恋愛の滑稽な素晴らしさだと分かる人には分かるはずだ。


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