たとえばセカイが沈むとき

一年後のセカイ



 そう。チサトの痛ましい事故から一年後。命日である今日、チサトが命を落とした場所で立ち止まり手を合わせた僕に、“悪魔”が話しかけてきた。

 自らを悪魔と名乗った、その男の第一印象は、『胡散臭い』に限る。

 パッと見たところ、翼も角も、尻尾すらない。それっぽさを感じさせるオーラがあるわけでもない。本物だとは到底思えなかった。

 抽象的な偶像として言ったに過ぎないのだろう。

 全身黒ずくめという定番を着てたなら、少しはそれらしく見えるかもしれないが。

 紫やオレンジ、緑などでサイケデリックな色彩に仕上がっている幾何学模様のダラリと垂れた服。その上に何故か羽織られた白衣。

 服装だけでは、どれだけ好意的に見ても、“悪魔”というより“傾奇者”だ。


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