forget-me-not
『…ふ、は、はは』
夜くんの言葉を聞いて、私はたまらずに吹き出してしまった。案の定彼は怪訝な顔こそしないものの、意味がわからず首をかしげる。
「なにが、おかしいの」
『だって。だって…』
「……?」
『夜くんさ、自分で思ってるより、よっぽど人間らしいんじゃないかな』
私も、自分でそう言っておいて、どうしてそんなふうに思ったのか明確にはわからなかった。けれど、奇怪ではあるにしても、まったく感情の欠片もない生き物が、はたして突如他人にキスをしたり、ましてや首をしめたりするだろうか、と思ったのだ。
「僕が…、人間らしい…?」
夜くんはちょっとばかりあっけにとられたようだった。自分に向けられた言葉が、あまりにも予想外であったに違いない。
たしかに彼は冷静で、合理的で、他者の観察をさせたら右に出るものはいないかもしれない。
だけど、自分のことには鈍感だったりして。
『感情がない、みたいに言ってるけど、私にはそうみえないもん』
「まさか。」
『じゃあなんで私にキスしたりするの?』
「それは、感情的な人間がやりそうなことをしてみたかっただけ」
『どうして?』
「感情を持たない僕は、なにかをしようとする強い衝動によって行動することができない。だから先に行動してしまえば、あとづけで衝動や感情が芽生えるかもしれないと思ったんだよ」
…むむむ。あまり頭のよくない私には一気に飲み込むことができない理屈だった。
ようするに、勉強する気がおきなくても、机に向かっていやいや勉強しているうちに楽しくなったりやる気がでたりする、っていうあの話だろうか。
それにしたって…