forget-me-not
(…不審者だ、不審者)
私がそう思いったのにもいくつか妥当な理由があった。
まず、人がふつうは乗らないところに座っている。そもそもどうやってのぼったんだ。それから見知らぬ女子高生ににこにこ話しかけている。
極め付けがこれ……
男を見るのはこれで七日目だということだ。
「よ、」
三度目の呼びかけ。よくも懲りずにまぁ、といったところだけれど、話しかけてきたのは今日が初めてだった。毎日変なやついるなぁ、とも思っていた。それでもたいして気には留めていなかったし、ときどき視線を感じても無視を決め込んでいた。
(…こんなことならもっと早く通報するべきだったかな)
だけど一応大学の前だし、ただの学生ということもあり得るのでそういうわけにもいかなかった。
やれやれ、と。仏頂面のままにねめつけてみる。が、まったく効果がないのか、足をさらにぶらぶらと揺らし、にこにこ顔は健在だ。
「…あの、ナンパなら街中でやってください」
「へ?ナンパ?だれがしてるの?」
「…違うならいいです、じゃ」
うざい。ただ、そうとだけ思った。にこにこするのをやめられないのだろうか。酷くバカにされているように感じる。