forget-me-not
今思えば、なんてナンパな男だったんだろうと思う。それにまんまと引っかかった自分も、傍から見れば愚かだったに違いない。
それでもそのときは、その出会いが、私の中で最高に特別に思えた。そしてそれは次第に、男に対する感情にも重なっていった。
――いつしか神谷は、私の特別になった
それから私にはもうひとり、大事な親友がいた。
陵(りょう)という名前の、良き理解者。
陵は中学の中頃から学校には通わず、ふらふらと好きなことをして過ごしていた。だからといっていじめにあったとか、病気になったとかいうわけじゃなかった。
「学校にいく理由が、とつぜん、はじけてなくなっちゃったんだよ」
なにがあったのか、知るすべは未だないけれど、心配して家にかけつけた私に、陵はにこっと笑って一言、そういった。
私が考えるに、陵はとても大胆でかつ繊細な子だったんだと思う。絵や音楽の才能が人より遥かに秀でていて、人とは違う価値観の中で生きる人間だった。
確かに学校にいかなくても勉強はできたし、大学には行くつもりのようだったから、私は特になにかを咎めることはしなかった。
陵は私以上に私のことを理解していて、ときどき誰も思いつかないようなことを言ったりしては、時として周囲を驚かせた。
「神谷さんてさ、すごくフウのこと好きだよね」
『そう、かな。ただチャラチャラしてるだけなんだよ、あの人』
「でも、好きなんでしょ?」
『…うん。』
「いいじゃない。とてもお似合いだとおもうよ。でもさ、」
この時の陵が言った言葉を、私は一生忘れられないだろうと思う。
「でも、神谷さん、フウのためになら人を平気で殺しそうだよね」