forget-me-not
「なんだか、先輩がいってた森に似てる気がして」
そういわれて、その絵を食い入るように見つめてみる。
頭の中の、霞がかったもやの中を必死で掻き分けるように……記憶の糸をたどっていく。
――ぼくがこわくないの?
――ふぅん、キミって、珍しいんだね
その緑色の森を眺めているうちに、脳内でまだ幼いその声が響いてくる。
あぁ、思い出してみればこの口調、最近もどこかで聞いたような。
「…ちがい、ますか?」
躊躇いがちに口にした新戸くんの声でハッと我に返る。
約10年も遠い昔の記憶へ徐々に駆り出されていた私の思考回路は、現実に引き戻された。
『うーん、似てるような気もするけど、やっぱり絵だけじゃわかんないよ。ここがどこの場所かもわかんないし……』
「この絵のモデルになった森があるんです。だからひょっとしたら、先輩がむかし遊んでいたのは、そこなんじゃないかって、」
その言葉をきいて、私は反射的に絵から顔をあげた。
本当?と小さな感嘆のような呟きをはきだすと、本当です。と彼はにっこり笑った。