forget-me-not
『…恋愛?』
「何か飲むでしょ」
当惑する私の言葉には答えないで、黒川夜は黒いロングコートをはらり、はためかせ、その背中に手を伸ばした。
「ほら、ハイ」
次の瞬間には背後から戻ってきたその左手に缶コーヒーと苺みるくが握られていた。
『…え、ど、どっから出したの?!』
慌てふためく私を横目にしれ、と顔を背けては苺みるくを手渡す彼。
(…え、今の目つき絶対一瞬バカにした)
『あり、がと』
奢ってもらっておいて礼を言わないわけには行かないので、渋々言って受け取る。
それに何の反応も示さずに黒川夜は缶コーヒーを開けて静かに飲んだ。
『なんで、苺みるく…』
「キミが好きだから」
私のほうを見ずに当たり前のように答える。
今ので変な勘違いするほど馬鹿じゃない。あくまで「私が苺みるくを好きだから」って意味だ。うん、ちゃんとわかってる。
なんで知ってるの、とか色々もう聞かないほうがいい気がした。
『恋愛を知りたい、って、何が?』
質問を変えて本題に入る。
(…あ、)
満月、だ。妖艶なその光を見上げる黒川夜の顔もまた…
(…悪魔みたい、だ)
美しすぎる、悪魔。それがこの男を形容するのに最もな言葉だと思った。