あの2日前
「春!」

少しだけ離れたところから名前を呼ばれた。

「仁くん!!」

僕も仁くんの名前を呼んで手を振った。

「お前、何持ってんの?」

「コレ、僕のお母さんが持って行きなさいって・・・。仁くん、お菓子食べる?」

僕は仁くんの反応を見ながら、地面に置かれたお菓子の缶のフタを開けようとした。
缶が少しサビていてなかなか開かない。
力を入れるとパカッと音を立てて缶のふフタが開いた。
同時に缶の中に入っていたたくさんのクッキーやチョコが一気に周囲に散らばった。
個包装だったから缶に戻せばまだ食べられる。
でも仁くんは、「これじゃあ食べられないよ。」と言うと落ちたお菓子を足で端に寄せた。

「仁くん、まだ食べられるんじゃない?」

仁くんが怒ると思ったけど、お菓子がもったいないし、お母さんに悪いから仁くんが足で端に寄せたお菓子を僕は一つずつ拾った。
すると仁くんは僕の手を掴んで手の中にあったお菓子をもう1度地面に落とした。

「地面に落ちたゴミを俺に食わせようって言う気なの?」

この時初めて仁くんが怖かった。
鋭い目つきで僕を睨んだ。

「ごめん。ごめんね、仁くん。でもお菓子がもったいないから僕が持って帰って家で食べようかなって・・・。」

仁くんは何も言わずに地面に散らばったお菓子を粉々になるまで、何度も何度も踏んずけた。
正直、仁くんが何を考えているのか、何をしたいのか、お菓子が嫌いだったのか全く何も理解できないでいた。
だけど、怖かったから仁くんには何も言えなかった。
何よりも仁くんに嫌われることが嫌だった。

僕は空になったただの空き缶を片手に抱えて、黙って歩く仁くんの後ろをついて行った。
2分くらい経ったと思う。
待ち合わせ場所の本当にすぐ近くに仁くんの家があった。
さっきまで何も言わず黙っていた仁くんが急に話し出した。
僕は驚いた。

「今日、誰もいないから。」

「・・・うん。お父さんとお母さん、仕事してるんだね?」

「母親は仕事。父親なんていねーよ。」

「・・・そっか。・・・そうなんだ。」



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