記憶のつぶ
興味津々に私たちの顔を交互にちらちらみている。

「かまいません。私は‥」


「では、ご案内いたします。」
小さな、少し年代を感じさせる旅館。
でも嫌な感じはなく、むしろいい味をだしていた。

「なにかありましたらご遠慮なくおっしゃってください。」
「あ、花火会場にはどう行ったらよいですか?」
「それでしたら、うちの旅館から車をおだしいたしておりますよ。」
どうやら花火大会は、地域でかなりの力を注いでいる行事らしく、大きなものらしい。

「では。」
にこにこと去って行く。

「6時かぁ‥まだ少し時間があるな。」
時計は5時を少し過ぎた辺りをさしていた。
「お茶、冷めないうちに飲んでしまおうか。」

なんだか気まずい空気が漂っている。
「ごめん‥」
ぽつり彼がいう。
「夕食の事ですか?」
いらないと頼んでいた。花火を観に行くのでそうしたのだろう。
「いや…!!
…ここで食べたかった?」
「いえ、そういうわけでは。」

彼は私をじっと見て、ふっと視線をそらし、
「部屋‥何もしないから安心して。」



私は一人、時間まで旅館の中をぶらぶらすることにした。
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