何千年の夏休み
確かに、この村に来るのは6年前以来だ。9歳の時にこの村を離れ都会へ引っ越した。…だけどこの村が恋しくて11歳の夏休みに泊まりに来たのだ。
恋しくて…っていうのは嘘になるんだけど。
私はこの村から離れちゃいけないんだ。
だから今年もこうして夏休みにこの村へ来た。
「…もう癖で…」
再び流れてきた汗を先程と同じ手で拭うと、笑みを浮かべたまま御婆さんに返事をした。
「そうかい…」
相槌を打つなり御婆さんは私の左手に目を向けた。
私の左手には花束。
花束っていっても一本の花なんだけど。
「……今年も行くのかい?」
私の様子を悟ったように笑みを消してそう問いかける。
…そう。
「…流石に毎年此処までは来れないから、空いた夏休み位と思って。」
「…そうかい…」
少し悲しげな瞳で私を見つめた。
御婆さん、
そんな目で私を見ないで
私が可哀相なんじゃない。
可哀相なのは―…