Look ON!
◆散りばめられた記憶の残骸
すっかり空になった煙草の箱を見て靖也は舌打ちしそうな衝動にかられたがなんとか押さえ込んでいた。
不味いとは思っていたが、なくなるとそれはそれで困るのだ……
もはや軽い中毒かもしれないな、と自嘲気味に口元を歪める。
カランと音を立てて氷がグラスを鳴らし、中に入った液体……もといウイスキーは氷とけた水でかなり薄まっていた。
まだ半分もなくなっていない黒のラベルのついたウイスキーのビンを開けて、継ぎ足す。
手でグラスを振ってある程度なじませた後、靖也は一気に飲み干した。

それでも今日は酔えないらしい……浅くため息をつきながら靖也は机に突っ伏した。



靖也は華南のことを妹のように思っている。
もちろん、初めて出会った頃から今の今まで、現在進行系で、だ。
「K」に入りたいと言われたときも、本当はそんな権利が自分にないのは良く分かっていたが反対した。
けれど、ただ純粋に……華南の手を汚してほしくなかったからだ。自分のように……



なんの音も響かないその空間で、ポツンと一人椅子に腰掛ける靖也は瞼を閉じると華南に始めて出会った日のことを思い出そうとした。
案外簡単に思い出されたその記憶に何とも言えない感情を抱きながら靖也は笑う、嘲るように。
突っ伏していた上半身を起こして、今度は反対に椅子にもたれかかった。
煙草のせいか少しくすんだその白い天井に靖也は手をかざす。
その手を裏返して手のひらを自分に見える形にした靖也は自分の手をボーっと見つめて一度強く握り締めた。
広げたのと同時にわずかに爪の残っていた爪の後がジワリと薄まってゆく。
けれど、人を殺めてきたその汚れは酷くその手に染み付いているようで簡単には消えなかった。

確か季節は初冬。
靖也が15の頃のことだった……
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