この世界は残酷なほど美しい


蒼空の下で母さんは息を引き取った。
僕はそれを遠くから見つめることしか出来なかった。
母さんが最後に言った言葉を今でも覚えている。



「お母さんね、とっても寂しいの。約束を守れなかったから」



寂しいのは僕の方だ。
お母さんにもっと遊んでもらいたかった。
お母さんに褒めてもらいたかった。
徒競走で1位を取ったら笑顔を見せて「すごい!」と言って欲しかった。
テストで100点取ったら「偉い」と言って欲しかった。

でもそれができなくなる。
寂しいのは僕だよ、お母さん。



「……流星?」




「あっごめん。ちょっと昔のこと思い出してた…」




「雅は…元気か?」



春さんは心配な様子で僕の顔を覗き込んだ。
春さんは父さんの友達でもあったから。
僕は視線を足元に落として首を傾げる。




「さぁ?あの人は何を考えてるか分からないから」




小さく笑ってみせた。
それは寂しさを埋める行為によく似ていた。




< 133 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop