この世界は残酷なほど美しい
「ちょっとビックリさせないでよ。心臓に悪いじゃん」
僕はそう言って心臓を押さえた。心拍数の上がる心臓がそれを物語っている。
春さんは笑いながら僕の隣に座った。
春さんはここの病院の看護師をしている。
短めの髪の毛にナチュラルメイク、長身な彼女にはパンツ姿がよく似合う。
可愛いという感じではなくかっこいいに値する。
僕は初めて春さんに逢ったのが幼稚園くらいで、その時春さんは男の人だと本気で思っていた。
「久しぶりだな、流星。最近元気してたか?」
「うん、元気だったよ。そういえばずっと逢ってなかったもんね」
それはいつから?
心の僕が問いかける。
…母さんが死んだときから。
「なんでここにいるんだ?誰か入院してるとか?」
「あぁ、うん。友達」
「そっか………。流星…もうすぐ美羽の命日だな」
音のない静かな空気に母さんの名前が加わると母さんの記憶が蘇ってくる。
だけど…何かを忘れている気がしてならなかった。