この世界は残酷なほど美しい


「そう言ってもらえると何だか嬉しいよ。ありがとう」




「いえ…僕もこんなに素直に話せたの久しぶりです」




「じゃあもう一つ頼みを聞いてもらってもいいかな?」



そう言うと彼はカバンの中から一冊の写真集を取り出した。
それは莉子の好きな写真家の写真集だった。
つまり父さんの写真集だった。



「もうこれ書店には売ってなくてさ。前に莉子がどうしても欲しいって言ってた写真集なんだ。渡しておいてくれないか?でもキミが嫌って思うなら捨てても構わないよ。キミが受け取った瞬間からそれはもうキミのものだから。」



「はい」と渡された写真集は、まだ新しかった。
きっと彼が几帳面で物扱いには丁寧だと感じ取れる。

僕は迷わずそれを受け取った。いつか莉子と彼が未来で繋がる日がくるというのなら僕はその役目をやってみせるよ。




「必ず、渡します…」



「ありがとう。俺はそろそろ行くよ」




最後に、一つだけ。




「名前を教えてもらってもいい?」



彼は振り返りこう笑顔で言った。



「高城渓斗(たかしろ けいと)またね」




< 230 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop