この世界は残酷なほど美しい


「そんなことしても…」



確かにこんなラッキーチャンスはないかもしれない。
僕が彼に会ったと莉子に伝えて「もう日本にいないよ」と言ってしまえば莉子は諦めて僕を好きになってくれるかもしれない。
それは何%の確率?
きっと0に近いと思う。


だけど、僕はそんな卑怯なことはしたくなかった。
勝負するのなら体を張って勝負したい。
真っ向から体当たりして砕け散るのも悪くはない。


それに、そう伝えたところで莉子は彼を忘れるはずなんてないのだから。
夜空を見上げれば星が散らばっていて、星を見る度に莉子はきっと彼を思い出すはずだから。



「莉子はあなたをずっと好きでいると思います。」




「……そうかな」




「きっとそうだと思います。だから僕は莉子があなたを選んでも恨んだりはしません。幸せになってもらいたいです。」




誰かの幸せを願うことは、ひどく難しく、残酷だ。
蓮が花音の幸せを望んだように。
だけど人の幸せを願える人間こそ、繊細で美しいのだ。





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