僕のミューズ
彼女の瞳と視線がかち合い、否応なしに心臓が跳ねる。
それが悟られない様に、俺は早口で言った。
「ランウェイ、最高だった!まじありがと。えっと…着替えたんだ。どうしよ、友達と…」
連絡取れる?、と、聞こうとした時だった。
バチンと頬が弾ける音が響く。
一瞬、周りの動きが止まった。
しん、とした控え室。
遅れてくる、頬に感じる熱い刺激。
何がおこったのかわからないまま、俺は視線を彼女に向けた。
真っ直ぐ、俺を睨み付ける。
彼女の綺麗な手のひらが、俺の頬を叩いた衝撃で少し赤くなっていた。
そう。俺は、思いっきり彼女に頬を叩かれたのだ。
「…え、」
人間、本当に驚いた時には間抜けな声しか出ないらしい。
俺は彼女の目力を目の前にし、微動だに出来なかった。
「あ、遥!」
不意に控え室の入り口が開き、紺が顔を出した。
それを合図に、控え室のど真ん中で繰り広げられた修羅場を見ていた野次馬達も、自分の準備の流れに戻っていく。
ざわつきが戻ってきた控え室を横切り、紺が俺達の前に来る。