僕のミューズ
一瞬だけのキス。
俺が離れた後、芹梨はまたその瞳にうっすらと膜を張らせながら、言った。
『・・・ありがとう。あたしを、選んでくれて』
涙をこぼす前に小さく笑う芹梨。
その笑顔には、彼女の強さが表れているようだ。
「誰が何と言おうと・・・芹梨は、最高のモデルだから」
俺は笑わず、真剣にそう言った。
誰が何と言おうと、俺の目は間違ってはいない。
芹梨は、最高のミューズだ。
芹梨は『ありがとう』と言おうとしたが、その前に顔がゆがみ、それを誤魔化す様にテーブルの上から俺を抱きしめた。
俺も彼女の細い背中に腕を回す。
障害を背負うということ。
それは多分、背負っていない人間にはわからない苦しみばかりなのだろう。
わかるよ、なんて、気休めは必要ない。
わかろうとしたって、到底わかるはずはない。
それらを受け止めるのも乗り越えるのも、全部自分自身にしかできないことなんだ。
だったら俺は。俺は。
・・・これから先どんな困難が芹梨に降りかかったとしても、音のある世界から、俺はこの子を守る。
絶対に、守る。
芹梨を抱きしめながら、俺はそう、心の奥底で決意した。