僕のミューズ

一瞬だけのキス。

俺が離れた後、芹梨はまたその瞳にうっすらと膜を張らせながら、言った。


『・・・ありがとう。あたしを、選んでくれて』


涙をこぼす前に小さく笑う芹梨。
その笑顔には、彼女の強さが表れているようだ。


「誰が何と言おうと・・・芹梨は、最高のモデルだから」


俺は笑わず、真剣にそう言った。

誰が何と言おうと、俺の目は間違ってはいない。


芹梨は、最高のミューズだ。


芹梨は『ありがとう』と言おうとしたが、その前に顔がゆがみ、それを誤魔化す様にテーブルの上から俺を抱きしめた。

俺も彼女の細い背中に腕を回す。


障害を背負うということ。

それは多分、背負っていない人間にはわからない苦しみばかりなのだろう。

わかるよ、なんて、気休めは必要ない。
わかろうとしたって、到底わかるはずはない。

それらを受け止めるのも乗り越えるのも、全部自分自身にしかできないことなんだ。


だったら俺は。俺は。


・・・これから先どんな困難が芹梨に降りかかったとしても、音のある世界から、俺はこの子を守る。

絶対に、守る。


芹梨を抱きしめながら、俺はそう、心の奥底で決意した。




































< 185 / 250 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop