僕のミューズ

前に、高橋先輩が言っていた。

『本当の意味の流行を作り出しているのは、デザイナーでも有名ブランドでもない。街を行き交う人達だよ。彼らが認めて身に着けているアイテムこそ本当のニーズ。服を作り出す側は、そのニーズを的確に見極めなきゃいけない』

尊敬する先輩が言った言葉を、俺は忠実に身に付けた。

それからこうやって、ぼんやりと人間観察をすることが増えたのだ。

もうすぐ桜の季節だが、まだ肌寒い季節が続いている。
心なしか、いつもよりジャケットを羽織っている人が多い。

先輩達のショーが終わり、2週間が過ぎようとしていた。
ショーも無事終わり、卒業式もつい先日終わった。

先輩達が卒業して自分達が最高学年になった実感は、まだ到底ない。


…ファッションショーか。


俺はひとつため息をついて、コーヒーを飲み干す。


あの日出会った彼女とは、あれから一度も会えていなかった。

ショーが終わってから、俺は大学中…いや、言い過ぎかもしれないけど、それでも知り合いという知り合いに彼女の事を聞いて回った。
が、有力な情報が手に入る事はなかった。
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