僕のミューズ

「何か…実感わかねぇんだよなぁ」
「就職の?」

俺は頷いて、ネクタイを取った。

このご時世、内定を早めにもらっておいてあれだけど。

俺が内定をもらっている会社はアパレルの会社で、仕事内容は所謂ショップ店員だ。
最初は店頭で、しばらくしたらバイヤーやデザイン等希望の道に進めるわけだけど。

「ほんとにいいのかなとか思わねぇ?」

やりたくない事ではない。
ただ、本当にやりたいことなのかと言われると、自信を持って頷けなくなる。

「自分にあってるから、内定が出たわけだろ。気にしすぎだって」

俺とは違いあっさりしている紺は、特に気にも止めずに話題を変えた。

「それより、明日だろ?」

いつもの笑顔で紺が聞いてくる。
俺は何を言われるかがわかり、「あぁ、まぁ」と曖昧な返事を返す。

「楽しんで」
「俺で楽しむな」

ははっと笑い、紺は再び雑誌を開いた。
相変わらずマイペースな奴。俺はそんな紺を横目に、自分の飲み物を頼みに行く。


明日。

実は、明日、芹梨とのデートなのだ。


いつもの抹茶フラペチーノを頼みながら、この展開の始まりを思い出していた。







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