僕のミューズ
ふぅっと長い息を吐く。
未だ早い心臓のペース。
彼女のどこか一部を思い浮かべただけで、心臓の音は高まった。
と同時に、不安も沸き上がってくる。
…彼女、文句一つ言わなかったな。
友達の方は色々言っていたけど、彼女は一言も文句や疑問をぶつけなかった。
ただ最後まで、黒目がちの瞳を開いたまま、眉間にしわを寄せていた。
その表情さえ、綺麗だと思ってしまう。
どうかしてるな、俺。
突然現れた俺のイメージにぴったりの彼女。
彼女の事を、俺は何も知らないのに。
本当にこのショーを任せてしまって大丈夫なのだろうか。
そんな不安が一瞬過ったその瞬間、心臓に響く音楽が遠くから聞こえた。
ショーが始まったんだ。
俺はそのビートを聞きながら、息をついて立ち上がる。
…もう、待つしかない。
何とか無事に先輩のショーが終わればいい。そう思い、まるで死刑囚が死刑に向かうかの様な足取りで、会場へ向かった。