KISS AND SAY GOOD-BYE
最初に歌ったのは、去年メチャクチャ流行ったWESTLIFE (ウエストライフ)のMy Love(マイラブ)だ。
美華がウットリとした顔で聴いてくれるので、マイクを握る俺の手も強くなり、気合いが入ってくる。
カラオケ店で、マッタリとした時間を過ごし、久しぶりにゆっくりと美華との時間を楽しんだ。
途中、歌うのも飽きてきて、美華と1時間程うとうとしていた。
そうとうバイトで体力的にも精神的にも疲れていたみたいだ。
夕方6時になり、会計を済ませて外に出た。
薄暗くなった街並みには、クリスマスイルミネーションがキラキラと輝き、まるで宝石箱を覗き込んでいるみたいだ。
しかし、さっきまで暖かい店内とは裏腹にピキーンと張りつめた冷たい夜風が美華との距離を縮めてくれる。
寒くても、綺麗な街を好きな人と寄り添いながら歩けば、心の中は暖かくなってくる。
そして歩くこと10数分、到着したニュースターホテル。
新星グループが、日本でプロダクション業務の次に手掛けた事業だと社長から聴いた。
今は新宿に在るこのホテルだけだが、いずれは日本全国にニュースターホテルを造りたいそうだ。
俺と美華は、まだ少し時間も有ったので1階のラウンジに行き、エスプレッソコーヒーを飲んでいた。
「美華、俺さ3年に成ったら進学クラスに入ろうと思う。」
『リュウも!?
私も進学クラスに入ろうと思ってたのよ。
で、何処の大学を受けるの!?』
「一応W大学を受けようと思うんだ。
美華は?」
『私は、T女子大受けようと思っているけど、リュウがW大学を受けようと思っているんだったら、私もW大学にしようかな!?』
進路の事も気になるが、そろそろ予約した時間が近付いてきたので、10階のレストラン【Petit accueil】(プティタクイユ=ささやかなおもてなしの意味)へ向かうためエレベーターに乗った。
窓際の席は、とても見晴らしが良く、眼下に拡がるクリスマスイルミネーションが、普段見る夜景をより一層美しく彩ってくれている。
『うわぁ~、キレイ!
リュウ見て見て、スッゴく素敵な夜景よ。』
「美華の方が素敵だよ♪」
『臭いセリフを笑いながら言わないの!
今日は、本当にありがとうね。』
「いつも忙しくて淋しい思いをさせているから、今日は頑張って用意したよ。
一応、コース料理を頼んどいたけど、大丈夫だよね。
美華の好みに併せたオーダーにはしたつもりだけど……」
『大丈夫。
リュウに委せてるから。』
「OK!
まずはメリークリスマス!」
と言いながら、胸の内ポケットから細長い箱を取り出しながら、美華の後ろに立っているボーイに目配せをした。
すると、美華の両サイドから白い薔薇の花束と真っ赤な薔薇の花束が現れた。
それをテーブルの上に置いて、お辞儀をしてボーイ達が去っていった。
そして、美華の目の前にはクリスマス仕様の包装紙に包まれた箱が差し出された。
『ありがとうリュウ!
キレイなバラ!
ステキ!
これは?
開けて良い!?』
「どうぞ開けて!」
『うわぁ~、素敵なネックレス!
キレイなピンクの石が付いている。
ヒンクトルマリンだぁ~!
本当にありがとうねリュウ!
私の好きなものばかりだよ。
嬉しくて涙が出てきちゃった!』
と言いながら、涙を拭きながらも満面の笑みを浮かべている美華だった。