とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
『来い!止まるな!』
『…マジかよ…!?』
考えてる余裕はない。
クリスは悪態をつきながら右京の腕に足をかける。
先程同様、体が浮く…。
クリスは自分が翔んでいる錯覚に陥った。
それを数回繰り返した所で『タイム!タイム!』とクリスが腕で“T”を作った。
クリスは膝に両手を着いて呼吸を整える。
『…見失った…。』
右京はポツリと呟いてインカムに『バージの位置は?』と聞いた。
『そこから北北西に約30m…まだ近いぞ。』
バジリスクが右京の姿が見えない事に気付いて少し不安げだ。
『休憩は終わり!クリス行くぞ!』
『…ああ…』
全然息の荒れていない右京に負けたのを認めたくない。
クリスは本当はもう少し休みたいのを我慢して立ち上がった。
先程と同様に助走をつけて右京の手に足をかけた。
…が、一瞬踏み切った足が震えた。
『…!?…』
『クリス…!!』
空中で体勢を崩し、ビルの谷間から吹き上げる風でさえクリスを浮遊するのは不可能だった。
『くっそ…!!』
右京は落ちていくクリスに向かって身を投げ出した。