とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
闇に浮かび上がったのは、古びた舘だった。
─…ここが隠れ家…!
ここが結界の中で無ければ右京に連絡出来るのだが、残念ながらテレパシーも使えない。
─せめて何か目印を…
そんなバジリスクの想いも虚しく、既に舘へ続く門の前まで到達していた。
─…諦めるな!考えろ!
…自分は熾天使ウリエルの側近。
…主人の役に立てなくて自分に何の価値がある!?
男に促され門を潜る。
─やるならアレしかないか…
バジリスクは軽く目を閉じ、これから自分のすべき行動を頭の中でシミュレーションする。
ガシャンッ!という門の閉まる音と共に彼女は目を開けた。
男は立ち止まったまま動かないバジリスクの肩を掴んだ。
─パシンッ…!
バジリスクがその手を払い除けた。
グルルルル……
唸りながら男がバジリスクを睨む。
そして牙を見せてゆっくりと唇を舐め回した。
バジリスクは嫌悪たっぷりの半眼で睨み返した。
─問題はタイミングね…
男は乱暴にバジリスクの腕を掴むとグイッ!と引き寄せた。
長い爪を彼女の首筋に這わせる。
ここで正体を知られるのは都合が悪いが、この状況では仕方ない。