とある堕天使のモノガタリⅢ ~ARCADIA~



さっきから男の様子がおかしい。




バンパイアなのだから最初からおかしいのだが、それがまた急変したのはほんの2~3分前だ。



今まで荒い息を繰り返していたのに、何故か突然それが治まった。




そしてバジリスクが何を話かけても答えない。




ただギラギラと充血して真っ赤になった瞳でこちらを見て、時折ニヤニヤと笑う。




─さて、どうするべきか…




自我崩壊してるのだろうし、ただ獲物を狩るだけの野獣になったとしても不思議ではない。




バジリスクはいつ襲われても反撃できるように、注意深く男を観察する。



蒼白な顔と笑うと見える鋭い牙。




虚ろだった目は意外としっかりしてはいたが、出血したかの様に真っ赤だ。




今まで色んな悪魔と対峙した事はあったが、バンパイアは記憶にない。




襲われたとしても負ける事はないだろう。




ただ、悪魔と違ってバンパイアのベースは人間だ。




恐らくその身体は脆い…。




黙って考え込んでいたバジリスクは前を歩く男がピタリと止まったのに気付いた。




『…?』




どうしたのかと思っていると、男が正面の闇を指差した。




バジリスクは男が指差す先に利かない夜目を凝らした。




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