粉雪の舞う夜
「こんばんわ」


ゆっくりと振り返るその人は、私が今一番逢いたい人だった。


「…寒くないんですか?」


「うーん。
君は、寒そうだね?」


「そりゃ、冬ですからね」


彼は、私がした質問を質問として返してきた。


私が、聞いたんだけどなぁ〜。
まぁ、いいか…。


「立ってないで、どうぞ?」


ずっと彼を見下ろす形で立ったままだった私に、彼は空いている隣のブランコに手を向けた。


そして、雪の積もるそこを手ではらい、その上にハンカチを置いてくれた。


「気休めにしかならないけどね。
良ければ、どうぞ」


きっと汚れないためにハンカチを置いてくれたんだろうけど、薄く出来ているハンカチは彼の言う通り、ひいていてもあまり効果はないだろう。


でも、私はその彼の気持ちが嬉しかったから、笑顔で『ありがとうごさいます』と、言ってブランコに座った。


彼は、ニコッと微笑み『いいえ』と、言うとまた前を見ている。


私も、彼から目線を前へ向け降り積もる雪を見つめていた。


「……懐かしいなぁ」


何も音のない世界に、彼の低い声が響いた。


私は雪から彼に視線を向けると『懐かしい?』と、聞き返す。
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