鉄の救世主(くろがねのメシア)
拳銃を握り締めたまま、豊田に一歩踏み出す男。

身構えたまま下がる豊田。

一触即発の状態だ。

…何もかも失い、男は何も恐れていない。

人生を棒に振る事も、人を殺してしまう事も、恐らくは自分が死ぬ事も。

きっかけさえあれば、本当に拳銃の引き金さえ引いてしまうだろう。

その覚悟が男にはあった。

しかし。

「無駄よ」

豊田は強張った表情のまま言う。

「貴方には拳銃は撃てないわ。馬鹿な真似はやめてその拳銃を渡しなさい」

「何だと?お前俺を馬鹿にしてるのか?」

男はいきり立つ。

「こんな引き金引くだけのもの、俺が撃てないと思ってんのか!」

「…ええ」

豊田は頷いた。

「貴方には撃てない。貴方は今自暴自棄になっているだけだもの…本当はそんな大それた事できる人じゃないわ」

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