百もの、語り。

「どうしてそんな事が解るの?」

私が尋ねると、妹はこう答えました。

『だってあれ、足なんだもん。
 無いから、歩けないんだよ。
 お姉ちゃんがそれを拾ってから、
 ずっとこっちを見てたもん』


足?これが?

妹の話は要領が掴めない。
どうしようかと悩みながらも、
きっとこの子は寝ぼけてるんだ。
怖い夢でも見たのね。

だからそんな訳は無いと、
私は再び懐中電灯を手にしました。


そうしてテントを捲ると、
予想していたよりも近くに、
その人の姿はありました。

声をかけようとして、気づきます。

……あの人、足を引き摺ってる。


妹の言った通り、歩けないようでした。
でも怪我か何かをしているのかもしれない
そうは思いましたが、
正直、気持ち悪かったんです。

なんていうか、雰囲気が、違う。
そんな印象を持ちました。



申し訳ないけどやっぱりテントに戻ろう。

そう思い、体を戻そうとしましたが
スイッチを押していた懐中電灯が
うっかりと、外を照らしていました。


いけない!


その光で、人影がこちらを向いた時、
思わずそう思いました。

理由は解りませんが
無性に恐怖を覚えた私は、
急いで体を引っ込ませました。

無事に頭までテントに戻ると、
妹も怯えたように、こちらを見ています。


「……大丈夫よ」

根拠はどこにもありませんが、
私はそう言うしかありませんでした。

忘れて、もう寝てしまおう。
寝袋にもぐりましたが、
やっぱり外からずるずると、
あの音は聞こえ続けています。



< 5 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop