ヒロイン 完
「奈緒ちゃん」



不意に彼の温かい腕の中に包まれた。それでも私は外の世界から視線を逸らすことができない。



「奈緒ちゃんがいなくなったら、みんな悲しむよ」


「あはは」



渇いた私の笑い声が閑静とした部屋に響く。



「誰も悲しみませんよ」



「奈緒ちゃん笑わないで」



あれ?何で笑っていられるんだろう私。



「奈緒ちゃ……」


「誰も、誰も、いないんです」


「……」


「私にとってあの子が“あの子”だったように、彼らにとって私は“あの子”だったんです」


「……」


「私は誰にも必要とされてない」


「笑うな」



低い声になった泉さん。ゆっくりと振り向けば思った以上近くに彼の顔があった。その眼差しは真剣そのもの。


そんな瞳から逸らすことなんてできるはずがない。



「笑うな」


「……」


「泣けよ」



泣く?


頬に触れらても乾いた肌の感触しかなかった。
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